執筆「さまざまな経験を経て得たこと。答えは「いつも,今が一番。」

 先日、9年ぶりに、法務省中央合同庁舎赤煉瓦棟を訪ねた。この中の法務総合研究所に室長研究官として勤めていた時の部長が、昨秋所長に就任、遊びにおいでと言われたのだ。
 普段はあまりつけない、未だに金ぴかの弁護士バッジを身元証明でつけて行ったが、門衛さんらは私の顔を覚えていた。
「あ、佐々木先生」。
 所長室に案内される。山登りが趣味の所長は、見た目ちっともお変わりにならない。
「9年かあ。僕らにとっては勤務地が変わるだけで大した違いはないけど、貴女にとっては激動の9年だったよね」
 私の転身に、彼は反対だった。検事という特殊な世界に15年。もともと政治志望もないのに、突然未知の世界に飛び込んで、やっていけるはずがない……。当然の心配であった。
「でも結果としては良かったね。貴女がこれほど順応性があるとは想像もしなかった」
 振り返ってみれば、慣れるにはそれなりに苦労した。だが、山を超えると、視界が一挙に開けた。現行の法律を現事象に適用する法曹と違い、そのもともとの法律をつくる、エネルギー溢れる議員たち。法曹のままでは、知り合う人・職種は限られていた。法曹のままでは歴史の勉強もしなかった。様々な意味で私は、世界を広げ、得難い貴重な経験をさせてもらった。
 3つの職業のどれが一番いいですか、とよく聞かれる。答えは「今が一番」。弁護士が一番というより、様々な経験を経て今の自分があると思うからである。
 いつも、今が一番。今後もずっとそうありたいと、感慨を持って赤煉瓦を後にした。

自由民主党月刊女性誌
『りぶる』

カテゴリー: 執筆 パーマリンク