執筆「「食」は人の基本」

 先日、近くのスーパーに行ったら、あるある。たらの芽、蕗の薹……。春立ちぬ。食の世界にもすでに春到来である。

 よくぞ日本に生まれけり。

 天ぷらはさほど好物ではないが、春野菜は別である。独特の香りと共に季節を運んできてくれるからだ。そのうち、料理好きの知人が、蕗の薹の佃煮を作って送ってくれるだろう。和食は実に多彩である。今や世界に知られる、刺身、寿司、すき焼き以外にも多くの食がある。どれも体にいい。食欲のない時でも食べられる。そのベースに醤油がある。東南アジア・中国の、魚を原料にした醤油とは別物の、日本固有の調味料である。

 少なくともこと食に関し、これほど恵まれた国はない。世界の店が揃い、食材も豊富に出回る。情報にも溢れ、その気さえあれば、家庭で簡単に様々な料理が楽しめるのだ。

 であるのに一体どうしたことだろう。おやつはスナック菓子。食事は毎日コンビニで調達したもの。そんな食生活で子どもがまともに育つわけがない。例えばカルシウム不足は、すぐに切れる子を作るのだ。

 体ばかりか心を作る。それが食である。家庭の基本は食にある。何のかのと口で言っても、親の愛情は食に表れるのだ。子を思い、その健やかな成長を真に願うのであれば、最も大切にすべきは毎日の食である。食と一緒に愛情を食べる子どもは、非行に走れない。

 食は、人の基本的な営みである。何を食べたかよりむしろ、誰とどう食べたか。笑い、語らい。いい食の思い出を子らにつくってやりたいものである。

東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)

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