執筆「弁護士のやり甲斐」

 法律事務所を始めて、ちょうど半年が経つ。この間、一番多い質問が「専門は何ですか」。

 実は、とくにないのである。民事・家事、刑事。よほど特殊な案件でない限り、何でも扱う。各自、好き嫌い、得手不得手はあっても、これが日本の弁護士の普通の業態であろう。

 未だ幸い訴訟社会ではないこの国では、一般人を対象にした専門弁護士はおよそ成り立たないのである。特殊なノウハウが必要であり、需要が常時確実にある分野。となると、勢い対象は企業である。企業法務、知的財産分野、倒産関係……。

 扱う額に伴って弁護士報酬は上がるから、中には桁違いの収入の方もおられるだろうが、私は根っから普通の事件が好きである。やり甲斐は人助けと見つけたり。人と社会を広く知るために、分野を限らず、様々な法律を扱っていたい。

 先日、在住外国人同士の離婚相談を受けた。具体的なことは書けないのだが、とにかく珍しい案件である。外国人の場合の準拠法以外にも、民事保全法、家事審判法、民事訴訟法が絡み、まるで迷路のようだ。先輩諸氏にも相談し、一応の回答は送ったが、やはり何かが引っかかる。週末さらに調べていて、急に解けた。昨春施行された新・人事訴訟法、それが盲点だったのだ。週明け早速、誤りを訂正した再回答を送った。

 視界がさっと開ける爽快感。複雑難解なパズルが解けた時の快感もこんなだろうか。昨今法律改正が相次ぎ、職務を全うするのは大変だが、趣味と実益を兼ねた仕事であるとつくづく思ったのである。

東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)

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