執筆「大人になるということは,忍耐強くなること。 さまざまな感情は時間が解決する。」

 先般、大いに腹の立つことがあった。
 誰かと食事でもすれば、飲んで喋って憂さを晴らせるのだが、あいにくその日に限って(?)予定がない。仕方ない、誰かに電話して聞いてもらうかと考えていたら、たまたま大学時代の友人から電話があった。世間話をするうちにだんだん気分が変わり、結局、その話はせずに済んだ。
 受話器を置いて、な?んだ、と拍子抜けした。離れた所から見ればどうということはないのだ。とらわれているから腹が立つ。怒りは大変なエネルギーを必要とする。つまらないことで自分を消耗させては馬鹿馬鹿しい。
 翌日、当の相手から電話があり、ずいぶん詫びられた。言い訳がましくはあったが、たしかに悪気はなかったのだから、よしとせねば。顧みて、直接当人にぶつけなくて、本当によかった。これからも普通につきあえる。
「短気は損気」──腹が立って仕方がないときの、私の呪文である。
『坊ちゃん』(漱石)は、「親譲りの無鉄砲で子どもの時から損ばかりしている」が、私は「親譲りの短気」で、振り返るとずいぶん損をしたことは間違いない。感情を相手に直接ぶつけるのは簡単だが、それをしては両者必ずやわだかまりが残る。人はどこかでつながっているから、将来ずっとひきずることになる。
「日にち薬」とはよく言ったものだ。恋愛のような激しい感情ですら、時が経つと薄れ、時には忘れさえする。実際、冒頭の件は、その後言語道断の出来事が立て続けに起こり、それに比べて謝罪もあったし、可愛いものであった。あ?あ、本当に、怒らなくてよかった。
 とにかく何であれ、待つことなのだと思う。時が経っても怒りが収まらないときこそは、その理由を冷静に分析した上で、善後策を講じるべきなのだ。
 と考えていたところ、買い物も同じなのだとふと気がついた。衝動買いをすると、家に同じ物があったり、組み合わせが利かずに無用の長物になったりで、後悔することが多い。しばらく待って、冷静に考えているうちに、購買意欲が消えていることがよくある。それでもなお、欲しい物だけを買うのが、失敗しない買い物のコツだと、ようやく会得した。この時代、物は溢れていて、買わずに後悔することは、海外の、めったに行かない所に行った時くらいしかありえない。
 食べることも同じである。食欲に任せず、少し待つこと。大人になるということは、様々に忍耐強くなることなのかもしれない。

自由民主党月刊女性誌
『りぶる』

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