執筆「元気な高齢者は生き方の手本。 活躍する姿が人の励みになる。」

 杖もなく、ちゃんとした足取りで歩いてこられる。足元を見れば、茶色の靴。お洒落である。
 15年前、検事をしていた所に、有名な弁護士がいた。90歳を超えて、なお現役。新年会でご一緒したとき、「ほおっ、こんな美人が検事になる時代になったのだねえ。長生きするものだ」と、破顔一笑された。楽しい方である。
「検察庁で是非講演を」とお願いし、迎えにいくと申し出たが、「歩いて行けるので大丈夫」とのこと。とはいえやはり心配で、前の道路まで出た私が目にしたのが冒頭の光景だった。講演の場で椅子を勧めると、笑いながら手を振った。「いえ、弁護士は立ってものを言う商売ですから」。
 そして1時間、笑いを交えながら、貴重な体験を語ってくださった。60歳まで裁判官、その後弁護士に転身して30年余り。「皆さん、事務所に遊びに来てください。お酒が置いてあります」と軽妙に話を結んだ。その後100歳まで生きられたという。
 94歳の現役医師、日野原重明先生も「超」がつくほどお元気だ。3年前、親しい医師夫妻主催のパーティで隣り合わせた際、まずは同じテーブルの、私を含む7人ひとりひとりに、名前と職業を尋ねられた。丁寧な方である。
 講演が始まって、驚いた。冒頭で、今得た情報をその会社なり職業とご自身との関わりを即興で交えながら、正確に空で言われたのだ。続いて、長い医師経験からくる得難い人生訓を、ユーモアたっぷりに、やはり立ったまま1時間話されたのである。
 周囲には、高齢でもなお生き生きと活躍中の方が何人もおられる。もともと長生きの蔓でなければ、その年まで生きられないだろうが、こうした方々には共通項がある。よく食べる。くよくよしない。つまりは体も心も丈夫なのである。加えて、旺盛な好奇心。ユーモアのセンスや寛容性があること……。
 少子高齢化の時代、女性と高齢者を更に活用すべきだとよく言われる。医学の進歩は飛躍的な長寿をもたらしたが、元気で長生きしてこその「長寿」である。
 若さはそれだけで素晴らしいが、若いことと若々しいことは決して同じではない。近頃若々しさのない若者が目につく。自らをさえ元気にできなくて、人に元気は与えられない。人は誰しも元気のある人に元気づけられる。高齢で元気な人は生き方の手本である。どんどんそうした人が増えて、活躍してくれれば、それは次世代の者の大いなる励みになる。

自由民主党月刊女性誌
『りぶる』

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