トランプは一昨年の大統領選に勝利し、昨年1月、2期目の大統領に就任した(憲法上2期が限度なので、あと3年弱である)。その際の一般教書演説において、国内問題に専心する、戦争を止める、と言っていたのだが、その公約?などすっかり忘れたように、今年とっぱなベネズエラを急襲して、大統領夫妻を拉致(現在アメリカで麻薬関連事件の被告人として裁判中である)。そしてこの2月28日(日本時間3月1日)、イスラエルと共にイランを空爆、最高指導者ハメネイ師以下その家族や高官たち多数をピンポイントで一気に殺害したのである。
ベネズエラの場合は軍事的にはあまりに見事な成功だったし(プーチンは地団駄を踏んだのではないか!?)、アメリカ軍人の被害者はほとんどおらず、ベネズエラの民間施設や民間人に対する攻撃もほぼなかったからだろう、非難はすぐに止んでしまったように見える。悪名高かった現職大統領に代わって女性副大統領を据え、今後親米路線を歩ませるようだ。ベネズエラの国民にとって平和が訪れるのであれば、それはそれで良かったと思えないでもないのだが、今回のイラン攻撃はまるで違う。国連決議もなく自衛でもない先制攻撃であって、国際法に違反していることは同じだが、彼は朋友イスラエルと共に、イランという敵国の体制転覆を狙っているのだから。イスラム宗教体制を完全に否定し、自分たちの言うことを素直に聞く親米政権を作っていくなど、主権のある他国に対し、そんな勝手なことができないのは自明の理だが、トランプは一切聞く耳をもたない。回りは見事にイエスマンばかり。良心のある者は誰もいないのか…?
振り返って、2001年9月11日の同時多発テロ事件後、ブッシュ大統領は、イラン、イラク、北朝鮮を悪の枢軸と名指しし、イラクは大量破壊兵器を所有していると偽り(日本も騙された口である)、国連の査察によっても何も発見されなかったにかかわらず、2003年イラク戦争に踏み切った。その際国連安保理決議に図ったことは(ドイツやフランスは反対した)今回の独善的なイラン攻撃を思うとき、隔世の感がある。アメリカは、イラクで起こったずっと以前の事件を理由にフセイン大統領を拘束したうえ、裁判にかけ、2006年死刑判決を執行した。新聞一面に大きく掲載されたフセイン大統領の死体写真は衝撃的で、仮にも自分たちのトップをこういう形で殺された国民はどれだけ情けないことだろうと思ったものである。アメリカは日本の占領政策が効を奏したことに味を占め、イラクも民主化しようと考えていたというが、本来部族国家のイラクは独裁者フセインを欠いて統制が取れなくなり、反米ゲリラは多発するし、結局アメリカは2011年末、イラクからの撤退を余儀なくされたのである。
一方、アメリカがイランの東隣国アフガニスタンに侵攻したのは2001年10月。同時多発テロを起こしたアルカイーダの首謀者ビンラーディンの引渡しを拒否されたためだが、タリバン政権に手を焼くなどし、結局20年も経った2021年まで居続けて、撤退した(ビンラーディンはパキスタンに逃亡後の2011年、オバマ大統領の命令下、ピンポイントで殺害された)。ベトナム戦争もアメリカは7年で結局撤退しているし、攻め込んだ敵地での敗戦を繰り返しているのである。戦争は巨大な戦費がかかるし、死傷者多数かつ復員後はトラウマで悩む人も多く、犠牲が大きすぎて、国家としては失政でしかない。それをトランプはベネズエラで味を占めたのか、イラン戦争もわずか2~3日で終わるかのような妄言をし、次に4~5週間かかると言い、もっとかかっても我が国は大丈夫だと、その場限りの適当な発言に終始している。自分が言ったことを忘れるのは認知症なの?天性、嘘つきだよね。少なくとも自分の発言に責任を持っていない。これが政治家…? そう政治家ではないのだ。軍人でもない。もともとは不動産屋であり、テレビに出て顔を売っていた人間なのである。
戦国時代であれば敵将を倒せばそれで決着がついたが、国家はそんなことでは潰れない。次の権力者が選ばれるだけだが、トランプの要望に反してハメネイ師の次男モルトバ氏が選ばれたとの報道である。彼にとっては、アメリカ・イスラエルは国の敵以前に親の仇であり、トランプの期待する「無条件降伏」などあろうことか、今後徹底的に抗戦していくであろう。イランは中東の大国である。日本の面積の4倍以上、人口1億人近く、数千年の歴史を持つペルシア帝国であり、誇りも人一倍高い。戦争において空戦、海戦でやれることには限りがあり、最後は陸に上がって占領をしなければならないのに、まずどうやってイラン国内に上陸するのか。1990年から8年間のイラン・イラク戦争において、結局イラクはイランに攻め入ることが出来なかった。西と北の国境沿いに険しく長い山岳地帯があり、これが天然の要塞となっているのである(広大な砂漠は東側に位置している)。
トランプのことを「自己愛性人格障害」と喝破している識者のコメントがあり、膝を打った。これはサイコパスと同種の人格障害(パーソナリティディスオーダー=異常人格)であるが、とにかく自分が理屈抜きに絶対的に正しくて、不都合なことはすべて他者のせい。賞賛を受けることが大好きであり、誹謗中傷は受け付けない。敵は徹底的に潰す。トランプの場合は誇大妄想もすごい。ウクライナ戦争も自分が大統領になれば24時間!で終わらせると豪語していたが、もちろん全く出来ていないし、出来る見込みもないが、反省など皆無である。どころか未だにノーベル平和賞を狙っているというのだから、やっぱりおかしいよね、この人、と思わざるを得ない。比べて、中国の王毅外相が全人代の後に今日至極真っ当なことを言っていて、びっくりした。中国は民主主義国ではないし、言論の自由もないが、アメリカももうあまり変わらないのではないか。「法の支配」という共通の価値観に支えられてこその同盟国だったのだが。
11月に行われる中間選挙のことでトランプの頭は一杯だと言われている。もちろんエプスタイン文書のこともあるだろうが。下院議員選挙で共和党が負けて民主党議員が数で上回れば、何らかの理由をつけて弾劾にかけられることを恐れているという。しかし、だからといって上院で行われる弾劾裁判で有罪になるかと言われればそんなこともないのだろう。そもそもトランプが有罪になって失職したとすれば、副大統領のバンスが大統領になるだけであり、トランプほどひどくはないだろうが、その後の展望もなかなか見えてこない。アメリカも人材難なのだろうけれど…とにかくリーダーは真っ当な人でないと、どうしようもない。



