執筆「自らを守る権利」

 五年前、参院で開催された「学生と語る憲法調査会」でのことだ。
  自衛のためでも戦争は絶対に許されないと言う女子学生の一人に、尋ねてみた。「では、貴女自身が襲われたらどうするのですか」
「そのときは……身を捧げます」
  ざわついたのは我々議員席のほうだ。あのとき、分かった。とにかく暴力は駄目だと教育されてきたのだと。
  もちろん、人が自分や家族を守るのは、刑法以前の自然の法である。国の自衛もまた、憲法以前の自然の法なのだ。おそらく我々は、戦後長い平和と共に、国際社会での普通の感覚を失ってきたのだろう。と共に人としての普通の感覚をすら失くしたのかもしれない。自らをさえ守れずに他の誰を守れよう。そんな人間を誰が尊敬しよう。国も同じだ。自衛すらできない国が国際社会で高い地位を占めることはできない。そう考える人も多いはずだ。
  憲法九条。たぶんこの条項が長い間、改正論議をタブーにしてきたのだろう。だがこの度ようやく衆参両院憲法調査会の最終報告書が出されるに至った。諸外国は、社会の変遷に合わせて随時憲法も改正している。我が憲法は今や世界最古の憲法の一つなのである。
  時代は急速に変わっている。六十年前にはコピーもファクスもなかったのが、今や携帯電話、インターネットの時代である。この間裁判で認められた、環境権や知る権利、プライバシー権など、新たに盛り込むべき事項はじめ、改正すべきことは多い。

東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)

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