執筆「御縁を大切に」

 昨夏法律事務所を開業した際、親しい弁護士ほど経営を心配してくれた。毎月固定経費がかかる、依頼はそうそうはないよ、報酬請求が難しい……。
  だが、案ずるより産むが易し。周りの皆さまに支えられ、なんとかやれている。有りがたいことには最近依頼が相次ぎ、せっかくの大型連休もゆっくり休めそうにないくらいだ。
  実は、想像していたよりはるかに弁護士業は楽しく、充実した毎日だ。理由は二つ、思い当たる。
  一つは、違う職種を経験しているからだ。国会議員の時は、新米でもあり、数の一つにすぎない場面が多かった。委員会などの時間拘束もずいぶん長い。その以前の検事の時は自分でかなり決められたが、勤務時間が当然にある。だからこそ今、自由に時間がやりくりできる有り難みが身に染みる。
  もう一つは、後半生に入り、人生の有限を悟ったからだ。地球上に何十億と人はいても、実際に出会える人はほんの一握り。袖振り合うも多生の縁。御縁を大事にしなくてはと思うようになった。二万人の弁護士の中から私を選んで下さった方々。そのお役に立てて、なんと幸せなことだろう。
  人は誰しも天文学的な確率で、この世に生を受けてきた。そして出会う、それぞれの家庭、学校、地域、職場……。御縁を大事にすることは人生を大事にすることである。
  今春教授に迎えられ、大学での新しい御縁を頂いた。若者たちには、御縁を大切に、一回限りの人生を有意義に過ごしてほしいと願っている。

東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)

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