安倍晋三考

『選択』という,政治経済関係の情報雑誌がある。会員制で,発行部数は約7万部。私も長い間購読者であった。
 同誌は,平成15年7月号から翌16年1月号にかけて,安倍氏の記事を掲載している。いわく,
「驚くべきことだが,このほかに拉致問題でこれといった政策を何一つ打ち出していない。」「本来なら副長官が担当する官邸の国会対策も『御曹司』として免除されている。」「政治家というより運動家。器用に政策も口にするけど,本質は一見ソフトな大衆アジテーター。仲のいい同世代議員の診断だ。」「安倍氏の『活躍』とは,実は被害者と家族会から『最も信頼されている政府の相談役』として事あるごとにカメラの前で面会し,時に被害者や家族会の『臨時スポークスマン』と化して一部の不埒なメディアを激しく指弾することだけなのだ。」「むしろ実力ある政治家なら,構図を逆手にとって情報入手ルートを確保し,政治力を鍛えるステップにするくらいだが,そうした才覚を発揮できていない。」「経済にはもともと不案内で関与していない。残る仕事といえば,自民党の選挙対策委員会の指示通り各種選挙戦の応援に出かけるくらい」「そもそも政治力の拙さは,副長官の重責を担う前からのことだ。」「単なる使い走りに終始した点だ」「政治家に調整能力は不可欠だ。だが,これまでのところその才があるようには見受けられない。むしろ下手な部類だろう。」「話柄が首相を狙う政治家の風格とは言いかねるのだ。」「今ひとつ個性の弱いタレントが忘れられまいとして話題作りに励む姿をどこか思い出させる。」「議論も55年体制の枠組みから抜け出ていない古風な作りだ。」「『人気者への嫉妬』と思っているようだ。」(以上,7月号。当時内閣官房副長官)
「張子のパンダ安倍幹事長 角栄,小沢とは雲泥の差」「肝心の拉致問題についてさえ,政府内どころか 官邸内で何が進んでいるのか知らないことがありました」「身近に見る実像は勤勉,鋭敏,謙虚とは言いかねるタイプ」「中学生の基礎学力を身につけずに大学生になったようなものか」「青木・森コンビに間接統治された傀儡幹事長そのものだ」「『保護者同伴』の幹事長」(以上10月号)「あくまでも『選挙の顔』にすぎない」(12月号)「部屋に官僚を呼びつけ,あれこれ方針を打ち出したが,先輩族議員たちにあえなくひっくり返された」「副幹事長らと一緒の大部屋から離れず,」「与党の要を担うはずが何の実権もないことはもはや隠しようもない事実となっている。」「党内で注目する議員はほとんどゼロだろう。」(以上1月号)

 なるほどよく見ていたのだと頷く人は多いはずだ。大体がトップクラスの公人なのだから,批評・批判の対象になって当然なのである。
しかし,安倍氏はこれらの内容が名誉毀損ないし侮辱にあたるとして,同誌を提訴した。求めた慰謝料額は5000万円!!(人が死んでも3000万円程度である) 東京地裁は平成18年4月,一部について不法行為を認め,しかしながら認容額は50万円のみとした。実質敗訴である。判決は法律家の多くが読む判例時報1950号(平成19年2月1日号)に掲載されている。
 この訴訟は安倍晋三という人間を何よりも雄弁に物語っているように思う。さて真実が露わになった今,控訴審はどのような判断をするであろうか。

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