東名あおり死傷事故、懲役18年判決について思うこと

難しい判断だったろう。いわゆるあおり運転は「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」(平成25年制定)の第2条「危険運転致死傷罪」第4号に該たる。負傷で15年以下の懲役、死亡させた場合は「1年以上の有期懲役(=20年以下)」である。最大で20年なのに求刑23年??と思ったら、余罪があり、それらとの併合罪での懲役23年の求刑だったのである。判決結果は18年。最大の争点は、本件態様に危険運転致死傷罪が認められるか、であったから、認める以上、量刑自体はまずは妥当な線であったといえよう(求刑の2割減が一般的な判決相場である)。

本件は法がもともと意図していた、あおり運転による死傷ではない。駐車場での駐車の仕方を注意された被告人が激高し、被害者の車両を追い、時速100キロに及ぶ速度で4度の進行妨害を加え、やむなく追い越し車線で停止した被害車両の所に行き、後部座席にいた父親に対し、「殺すぞ」などと脅迫し胸ぐらを掴んで引きだそうとしていたときに(つまり停止時であり「重大な交通の危険を生じさせる速度」はその前に終わっている)、後方車両が追突、被害車両に乗っていた親2人が死亡、娘2人が負傷した事案である。

逮捕容疑は、上記法律第5条「過失致死傷罪」(懲役7年以下)だったのを、検察が危険運転致死傷罪として起訴をした。裁判員裁判なので公判前整理手続になったが、その際、同罪の適用に難色を示した裁判官に対し、同罪が認められなかった場合に備えて「監禁致死傷罪」(懲役3年以上20年以下)を予備的に追加したという。この罪名はちょっと苦しい。監禁の態様には当たらないだろう。

検察の主張は「一連の危険な運転が事故を招いた」とし、弁護側は「停車後に誘発した事故に同罪を適用するのは法律の拡大解釈」と主張した(監禁というほど時間が経っておらず、成立するのは暴行罪に過ぎない‥)。判決がどうなるのか注目されていたが、「停車行為は危険運転に当たらないが、4回の妨害は危険運転に当たり、停車行為、暴行とともに密接に関連し死亡事故が発生した」として、同罪の成立を認めたのである。罪刑法定主義は類推解釈を許さないが拡大解釈は可とする。結果は妥当と思うが、念のために、強制停止も含めるよう法改正をすべきであろう。危険運転致死傷罪が刑法内に新設された当時には予定されていなかった事故態様である。

この被告人には余罪がある。いずれも似たような事案であり、激昂してあおり行為をした挙げ句に停車させた被害者に対して「殺すぞ」などと叫んで車外に引きずりだそうとした強要未遂事件が2件、車のドアを蹴飛ばした器物損壊が1件。福岡在住の被告人が逮捕に至ったのは、負傷した娘さんらの証言が大きかったが、こんな大事件を引き起こした2ヶ月後にも同じようなことを山口県でやっているのだから、何をかいわんや。反省の色などあろうはずがない。要するに、激高して我を忘れる危険な性格であり、常習性が顕著である。長く刑務所に入ったからといってそうした性格が治るとも思えないが、罪に見合った刑罰は必要である。また、他の同じように危険なあおり行為を抑制するためにも、厳罰は必要である。

発端は被害者が被告人の駐車方法について注意をしたことだという。とんでもない停め方をしていたらしいが、人に注意をするのは何であれ、危険を伴う。ことに知らない人に対しては。世の中は「話して分かる」人ばかりではない。そうした人ならばそもそもルールを守っているはずだ。そうではない人は大体はとんでもない人だと考えてそうは誤らないと思っている。私も若い頃は電車内などで人に注意をしたりしていたが、事件が起こることを見聞きするにつれ、見て見ぬ振りをして行き過ぎるようになった。ナイフを持っていて刺されるかもしれないのである。正義感を持つのは大事なことだが、危険から身を守ることはもっと大事だからである。どんな大義があっても、死んでしまっては元も子もない。そんな奴に殺されては犬死になる。ことに車はスピードが出るわ、密室で匿名性があるわ(逃げるのも容易である)、運転者を違う人格にさせる、まさに走る凶器なのである。もともと危険な性格者に車を加えれば、二重の恐怖である。

本件では、何の関係もないのに、巻き込まれて追突事故を起こした後続車がいる。その運転者もどれほど傷ついていることかと気の毒で仕方がない。追突はどういう理由であれ追突車の責任とされているので、おそらく過失運転致傷罪の立件もされたであろう。自らの責任であろうがなかろうが、人を死傷させるのは大きなトラウマである。直接の被害者はもちろんのこと、被告人は、自らの短慮によってどれほどの大きな、取り返しの付かない被害を引き起こしたか、反省をしてほしいと願う。そして一罰百戒、こうした悲劇が二度と繰り返されないことを切に願う。

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