偽メール騒動

  いくらなんでもお粗末すぎる。いわゆる永田メールのことだ。
  まずは、メールという通信手段。そのコピーなど簡単に偽造できることは、ちょっとITの分かった人には分かる。つまり、発信者のメールアドレスなどすべてが正しくてさえ偽造かもしれないのに、まして、持ち込まれた時点から大事な箇所が黒塗りされていたのだ!! それを、ホリエモンが出したメールだと、予算委員会で断言できる神経は、およそ尋常ではない。
  内容もいかにもおかしい。あやしい金は現金で渡すのがイロハである。銀行に振り込んで歴然と証拠を残すような馬鹿なことは誰もしない。そんなことさえ分からない人が、東大→大蔵省という超エリートか、という揶揄はおくとして、そうした人が国民の代表をやっていていいはずはない、と私は思う。
  ネタを持ち込んだ人は、業界ではガセネタで知られた人であるという。それを知らなくても、ちょっとでも常識があれば、このネタが使えないことくらいは分かる。

  憲法51条にいう。「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない」。つまり院内では責任を問われ、懲罰の対象になる(憲法58条)。中で最も重い処分である除名は、出席議員の3分の2以上の多数による議決を必要とする。
  今回の行為は、除名に値すると私は思う。
  もし院外で同じ事実を「公然に摘示」すれば、名誉毀損に該当する行為なのだ(刑法230条)。刑罰は「3年以下の懲役・禁錮、又は50万円以下の罰金」。被害者(告訴権者)両名はともに民間人だが、仮に公務員であったとしても、処罰を免れるのは「事実が真実であることの証明」をなした場合に限られる(同230条の2)。加えて当然に、不法行為による民事上の損害賠償債務も発生するのである。
  憲法51条は、議員が何をどう言ってもいいと保障しているのでは、もちろんない。然るべき良識のある人が選ばれて(だから選良という)、自由に討議をすることが民主主義の基本であり、国民のためになると考えられたからにほかならない。特権は、それを享受して然るべき資格のある人にのみ与えられるべきである。議院は、その自律権において、特権を濫用した者に然るべき措置をとらねばならない。

  今回、民主党は、政党としてというより、組織としての体をなしていないことを露呈した。
  私が参院の予算委員会でテレビ放映のかかる質疑をしたとき、質問事項は事前に提出のうえ、参院自民党幹部や各官公庁の担当者が同席する場で、入念にチェックされた。政党の一員として公然に発言するのであるから当然だ。だが今回の場合、知らされていたのは国対委員長だけであったらしい。民主党には法律家も大勢いる。もし分かっていたら、きっと止めたにちがいない。
  民主党には政権担当能力がない。今回の迷走も、辞職勧告どころか党員資格停止程度で済ませるらしいと聞く。自民党にしても、除名より下の軽い懲罰で済ませるらしい。そして結局、「誰も責任を取らない」。これが教育の場でも国家の形としても、いちばん情けない事態であるのは間違いない。

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