今治の連続殺人事件に思うこと

この連休に起こった事件である。5月3日、愛媛県今治市の市営住宅で、高齢者親子が殺人の被害者になる。包丁で刺されて母親90歳越えは死亡、息子70歳は重傷。その語る目撃状況では、見知らぬ中年女が入ってきて、いきなり刺したのだという。包丁は現場に残し、自転車で逃走したらしい。

そのちょうど1週前の4月26日、その近くで、やはり高齢の独居女性が包丁で腹を刺されて死亡する事件があったという。手口が同じなので犯人は同一人物の可能性が高く、捜査本部が設置された。翌4日、今治署は重要参考人として1人の女性を任意で調べ、関係先を捜索した。やはり大活躍の防犯カメラが、ちょうどその時間頃、自転車に乗った女性を捉えていたらしい。

さすが手早いね、と感心する。まもなくその女性は逮捕されるだろう。いつかいつかと気になってネットを見ていたが、ニュースはない。ということは、本人は否認のままで、逮捕状を取るだけの決め手を欠くのだろう(包丁から指紋は検出されなかったという。手袋をして凶器その他に指紋を残さないのは今や普通である)。お隣韓国では検察が被疑者や参考人をよんで徹夜で調べをしているが、日本では違法である。任意でいつまでも調べられるのなら、逮捕状を執行して48時間以内に送検(検察が逮捕をする場合も手持ち時間の48時間は同じ)という厳しい身柄拘束期間の制限を容易に潜脱してしまうからである。

つまり、逮捕状を取って執行できないのであれば、遅くとも午前零時までにはいったん調べを打ち切り、犯人を帰らせないといけない。こわい。帰らせて自殺でもされたらどうなるのだ?! もちろん、外からならともかく、中に入っての監視はできない。心配は現実になった。翌朝、捜査員が迎えに行った時、彼女は自殺していたという。遺書を残して…(後に分かったところでは「私はやっていない」という遺書であったという)。

あ~あ、警察は失態だったと責められる…。案の定、失態と書いている記事もあったし、家に帰らせるなら自殺されないよう見張っておかないとといった無責任なコメントもあった(どうやって見張るの?!)。結果として非常に残念ではあったが、確実な証拠を揃えないと逮捕状を請求できない現状では(裁判所から万が一にも却下されることのないよう、有罪とほぼ同視できるほどの証拠を揃えるのが実情である)、警察としては仕方のない対応だったように思う。

私が残念だと思うのは、最初の事件時になぜこれを直ちに他殺と断定し、捜査本部を設けなかったかということである。亡くなった独居の高齢者は腹部の刺し傷だけではなく背部にも刺し傷があったという。であれば自殺ではありえないし、割腹は市井の女性が取る自殺方法ではないし(男だって、あえて割腹するのであればそれなりに威儀を正すだろう。玄関近くで格好も顧みずに割腹など考えられない)、まして被害者には自殺の動機もなかったのではなかろうか。そして、この事件で直ちに捜査本部を設けていれば、犯人も自粛して、次の犯行を止めただろうと思われるのである。それをしなかったために、犯人は気を許して次の犯行に及んだ…。

彼女が真犯人であれば、次の犯行はもう起こらないだろう。とはいえ、被疑者の自殺は捜査関係者のいちばん恐れることなのだ。逮捕後の勾留請求の要件は、①住所不定、②証拠隠滅のおそれ、③逃亡のおそれ(刑事訴訟法60条)の3つ。自殺は証拠隠滅であり、究極の逃亡である。もちろん真犯人が死んでしまえば、危険性は永遠に除去されるので、危険な者を社会から隔離することに重きを置く考え方であれば、それで何の問題もなく、かえって司法手続きに乗せる手間が省けたとするのかもしれない。

だが、日本国民が司法に対して常に求めることは「真相の究明」である。そして、真実を一番知っているのは当の本人である。いつなぜ動機を形成し、方法を考え、どういうことをしたのか。犯人死亡は防犯には万全だとしても、それによって真実究明の機会が永遠に失われることを意味する。やはり連休中に殺人(及びわいせつ目的誘拐罪だという)で再逮捕された松戸事件被疑者についても、被害児童の父親が述べるように、「やったのであれば本当のことを話してほしい」のである。遺族はもちろん、それは全国民の願うところなのである。

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