タレント釈放後の弁護士弁明に思うこと

この件、12日が満期日なので、示談が成立して釈放だとしたら今日(金曜)だよねと思いながら、昨夕事務所に戻ったら、案の定であった。そのこと自体は驚かなかったのだが、担当弁護士が報道各社に送ったというファクス全文を読んで、息をのんだ。これって、懲戒事案じゃない…!?

私は昨夏来所属弁護士会の懲戒委員会委員であり、対象弁護士及び関係者の事情聴取をしたうえで議決書の起案をし、加えて他の委員が起案した案件を討議して議決するという役目を担っている。昨日午後はたまたま月1回の定例開催日に出席していたので、よけいにそう感じたのかもしれないが、今日ネットで改めて読んでみて、改めての憤りを覚えている。

起案者はよほど刑事事件の素人なのであろう。前回のブログで書いたとおり、強姦致傷罪は親告罪とはされていない。だが告訴が取り下げられれば起訴はしないのだ。それは強姦や強制わいせつを親告罪とした趣旨が本人の名誉・プライバシーだからである。条文上親告罪ではないので、不起訴裁定書の主文は「親告罪の告訴の取り消し」とはできないが、「起訴猶予」としてその中に「告訴が取り消されたことも考慮して」と入れるだけであり、結局不起訴の結論自体は変わらない。それを、親告罪ではないのに不起訴としたのは、被疑者の行為が悪質ではないから(?)、ひいては被害者の合意があったから(? つまり「嫌疑不十分」だというわけだ!?)に及んでは、何をかいわんや。

そもそもこの主張は被害者を恐ろしく愚弄している。たしかに合意云々でもめることはある。例えば女性が男性の自宅に行った、女性が自宅に男性を上げた、一緒にホテルに行った…そうした場合、いざ事に及んで、ある程度の抵抗を示されたとしても男には前提事実があり、相手に許されていると思っても仕方がないところがある。男の故意が取れない場合、客観的には暴行ないし脅迫があったとしても公判維持は難しい。つまり検察庁としては嫌疑不十分で落とさざるをえないが、そうするよりは示談を勧め、告訴を取り消してもらったほうが「親告罪の告訴の取り消し」ないしは上記の通り「起訴猶予」で処理できるので、扱いがうんと楽である。しかし…本件はまるで違う。知らない者同士、どうやって合意が形成されていたと思えるのだ!? もしそう思っていたのならば、それは妄想ともよぶべき勝手な思い込みであり、精神鑑定の領域というべきであろう。

まあ、いい。そう本人が勝手に思い、また世間知らずの弁護士がその弁解を信じたのだとしても、それが内心に留まっている限りはよしとしよう。示談交渉において、今回の弁明文の内容を告げただろうか。合意があったと本人は言っている、起訴されたら無罪を争う(そうしたら貴女も法廷によばれていろいろ聞かれるよ、それは嫌でしょう)、と告げた上で示談を成立させただろうか。まさか。示談交渉ではひたすら謝罪だけをしたはずなのだ。そして無事に釈放を得た以上は怖いものなし、一方的な弁解だけをマスコミ各社に送り込み、そうすることで被害者を二重に傷つけたのだ。被害者には抗弁のしようがないのだから、恐ろしく卑怯なやり方である。

私もうっかりしていたが、昨今は被害者保護が行き渡り、警察に通報した段階で、弁護士会から被害者担当の弁護士がつくようになっている。本件も被害者側には弁護士がついたので、相手と直接交渉をする必要はなかったわけだが、被害者側弁護士との交渉はどんなものだったのだろうか。終わればこういう声明を出すよと言っていたはずもないので、相手方弁護士も自分の依頼者に立場がなく、困惑の極みではなかろうか。正体を明らかにする覚悟があれば、この弁護士を名誉毀損で訴えることもできるが、そうはしないとたかをくくっているのだろうか。というよりそんなことには思考が至らず、被疑者(依頼者)が言いたいことをただ代弁するのが弁護士の使命だと勘違いしているのはないだろうか。この声明文、ボス弁に読んでもらった上で出したのだろうか。この後の推移に非常に関心がもたれるところである。

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