後藤さん哀悼、中東の複雑な歴史背景について

1日朝、残酷にも後藤さん殺害の映像が流れたという。非道なテロに対し、それこそ世界中から怒りの声が上がっている。テロは許せない、当然である。

中東の歴史を少し調べてみた。そして、イスラム国設立の背景に100年前に遡る歴史があることを初めて知った。1916年のサイクス・ピコ協定──イギリス人サイクスとフランス外交官ピコが案を作った秘密協定のことである。英仏ロ3国が、第一次大戦後のオスマントルコ帝国の分割案を決め、現在のシリア、イラク、レバノン、ヨルダン辺りに人工的な国境線を引いた。宗教や民族などへの配慮は、なし。故にこの地域はもともと不安定な要因を抱えているのである。

そもそもイスラムという宗教は、同じ一神教でもキリスト教とは違い、教会や司祭・神父(カソリック)あるいは牧師(プロテスタント)といった神との介在者を必要としない宗教である。信者それぞれが神と直接に向き合えばよく、布教のために司祭や牧師をつかわす必要がないため、ムハンマドの預言は7世紀と遅かったにかかわらず、すぐに世界中の広範な地域に広がったと言われる。信者が神と直接向き合えばよい宗教はその性質上、国家にとっては厄介な存在である。良い方法としては国教にすれよいのだが、それも国境が自然に定まっていれば、の話である。人為的に、かつ列強の都合でできた国境だと、国家として体をなすのは至難の業となる。もともと中東は各部族が強く、その上にある政府や王室といってもそもそもが絶対的な権力ではないのだし、加えて、経済も通信もすべてが今や国境を越え、グローバル化している時代ときている。

加えてイギリスは、翌1917年、多大の戦争経費を負担してくれる富裕ユダヤ人向けに、バルフォア宣言を行った。ユダヤの父祖の地パレスチナにユダヤ人居住地を作ってやるという約束だ。これが1948年のイスラエル建国となり、もともと居住していたパレスチナ人が追われる形となって、その後の度重なるパレスチナ紛争を招く。多くをユダヤ人の富に支えれられているアメリカはイスラエルを支援しており、ではイスラム教のアラブ諸国はアメリカを敵視するかとなるとそうはならず、そこは石油利権や経済的援助その他いろいろと各国の思惑があり、みなそれぞれにアメリカともそれなりに友好的な関係にあるというわけだ。イラン・イラク戦争や湾岸戦争や冷戦終結やら、様々な出来事の上に、とりわけ2001年の9.11以後はアメリカは「テロとの戦い」を大きく宣言し、以後日本もイラク戦争やアフガン戦争や積極的に関わっていくことになる。

そもそも9.11がなぜ起こったのか、今もってこれだという答えは分からない。分かっていることは、テロとの戦いに終わりはないということである。テロが起こる背景には経済的格差もあるし教育の欠如もあるし、もっと複合的な問題があるだろう(普通のイスラム教徒は仏教徒と同様平和主義であり、宗教自体が原因でないのは明らかである)。そうしたインフラをどう整備していくのか、それこそ長い長い道のりになるけれど、諦めるわけにもいかない。後藤さんの死を無駄にしてはならないし、暴力に対して暴力でもって返すことはそれこそ終わりのない暴力を招くだけだと思うのだ。

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