執筆「冷静な国連論議を」

 国連安全保障理事会の常任理事国に入るため、日本が活発に運動しているという。
  常任理事国は米・英・仏・ロシア・中国の五カ国。あと非常任理事国が十か国。こちらは任期二年の改選組である。
  四年前、国連本部を訪れたときのこと。案内役の外交官が、我が哀れな実状を教えてくれた。場所は安保理会場の隣室だ。
「非常任でも理事国のときはいいのですが、任期を外れると、ここで待って、中から出てきた人にどうなったか聞くしかない」のだと。
  国連の加盟国数は現在百九十一。理事国数を増やし、その際地域的なバランスに配慮すべきである。ことに日本は、アメリカの二二パーセントに次ぐ、一九パーセントの国連分担金を負担している。応分の立場を要求して当然であろう。
  だがそれも、国連外交が数ある外交の一つにすぎないと承知した上でだ。そもそも国連とはどんな機関か。その憲章は「われわれ連合国の人民は」で始まる。国連(The United Nations)はすなわち「連合国」。現在の常任理事国五カ国は、第二次世界大戦の戦勝国だ。五三条には未だに敵国条項が残る。同時多発テロ以降、米国の顕著な国連軽視はEU諸国の非難を浴びるが、もとより加盟国の集合体、各国益を超えた価値や平和など幻想にすぎない。
  最近危険に思うのは、日本が米国一辺倒をますます強めていることだ。米国は今世界でどんな立場にあるのか。外交は全方位とはいわぬまでも多極でなければならぬ。米国を挟んでEU。中国を挟んでインド・ロシアというように。戦略なき外交が心配だ。

東京新聞 夕刊 『放射線』
(中日新聞 夕刊 『紙つぶて』)

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