執筆「健康で仕事があることの幸せ 暇なときにこそ怠けずに・・・」

 弁護士業を始めて、1年と何ヶ月か過ぎた。話には聞いていたことが、いざやってみて実感されることが多い。
  まずは、仕事の忙しさに大きく波があることだ。
  私のような一般の弁護士は、仕事をつくり出すのではなく、あくまで受け身である。たまたま案件が重なると、裁判も重なり、裁判所に提出する書面をいくつも起案しなければならない。昨今、審理迅速化の掛け声の下、書面提出期限は厳格に定められる。
  10月下旬までの約1ヶ月、この期限が重なった。後期大学も始まり、毎火曜は使えない。弁護士は通常、夕刻以降に起案するのだが、夜が結構入る私の場合、どうしても週末に持ち越しとなる。事務所に出るか、ボストンバッグに記録を詰め込み、自宅で起案するかだ。
  書面は、かつては裁判所宛に相手方弁護士の分も一括郵送していたが、昨今はそれぞれにFAXで送る。一つ一つ、スケジュールの「〇〇事件書面提出期限」を消し、最後のそれを消したときの達成感は大きかった。
  遙かに超えて、安堵感が広がる。ずっと綱渡りのような日々だったのだ。
  もし体を壊したら、もし身柄事件が入ったら……。身柄、つまり被疑者が逮捕される事件は最優先である。起訴不起訴はすべて逮捕勾留期間での勝負だから、何はさておき留置場に接見に行き、事実を聞き出し、また警察や検察庁にも足を運ぶことになる。
  実はこの間、身柄になりそうだという相談を受けていた。もしそうなったら、裁判は休めないが、大学を休講してこれを欠席して……と苦しい算段をしていた。幸い杞憂に終わり、あるいは相談者より私のほうが安堵したやもしれない。
  仕事のリズムが通常に戻り、私はきっちりと決意した。今後はいつ身柄が入っても無理なく対応できるよう、早めに起案を終え、身軽になっておくのだと。そして、弁護士稼業の至言、「暇な時にこそ怠けず、よく勉強しておくこと」。
  昨今の法律改正はめまぐるしい。何十年と不変だった民法・民事訴訟法、刑法・刑事訴訟法までもが大きく改正され、商法に至ってはそれこそ毎年のように変わる。弁護士会研修や本・雑誌でよほど勉強しておかないとついていけないのである。議員時代は、施行前の立法段階から知識を得られたのだが。
  ところで、その繁忙時、新たな発見をした。家のソファに寝そべってぼうっとしていたとき、なんて幸せなのだろうと思ったのだ。健康で、仕事があるからこその、幸せ。幸せは実はこんな身近にあるのだと。

自由民主党月刊女性誌
『りぶる』

カテゴリー: 執筆 パーマリンク