執筆「一流の総合芸術に触れる 芸術の秋にオペラ鑑賞のススメ」

食欲の秋、芸術の秋。
 最近、オペラにすっかり嵌っている。
 ピアノを4歳から習い、楽器は何でも好きだったが、なぜか声楽は苦手だった。普通ではない声を張り上げ、大したことでもない愛やら恋やらを、大仰な表情で歌われると、こちらのほうが恥ずかしくなる……。
 と言うと、大学の恩師からまじまじと言われた。「私はどんな楽器より、人間の声ほど美しいものはないと思っています」。彼は、当時の大ソプラノ歌手マリア・カラスではなく、大メゾソプラノ歌手、シミオナートの大ファンだった。
 その後私は、徐々に、声楽も好きになった。歌曲もオペラも、どちらもいい。結局のところ、一流の歌手が歌う本物の歌は、素晴らしいのである。
 ことにオペラは、演劇に加え、管弦楽と声楽から成る、総合芸術の極致である。ベートーベンは「フィデリオ」一曲、ブラームスはゼロ(いわく「結婚とオペラは諦めた」)だが、モーツアルト、ベルディ、プッチーニ、ワグナーなど、その演目は数多く、同じ物でも演出や指揮、配役によって別物になる。実に奥深いのである。
 好きになるコツは、芸術すべてに共通することだが、とにかく一流に接することである。私のお薦めはアンナ・ネトレプコ。当代きっての美人ソプラノ歌手だ。71年、ロシア生まれ。今や実力・人気共に世界一で、歌えるオードリー・ヘップバーンとも称される。透き通った美しい声、正確な音程。清純派から官能派まで、幅広い役柄を自然にこなせる演技力。来日オペラは高くて入手が困難だが、DVDでもその魅力が堪能できるので、是非観てほしい。
 愛と官能と死の世界、オペラ。きな臭いこの世をしばし離れ、夢の世界に浸るのは、精神衛生にとてもいい。

自由民主党月刊女性誌
『りぶる』

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