先の見えないイラン情勢に思うこと

 突然のイラン攻撃から1ヶ月。停戦も休戦もなく、紛争状態は悪化の一途を辿っている。ホルムズ海峡は事実上封鎖されたうえ、親イラン反イスラエルの在イエメン・フーシ派の蜂起で紅海まで封鎖されそうな危機的状態である。石油は入ってこなくなれば日本はどうなるのか。世界経済はこれからどうなるのか。全く先が見えなくなっている。イランとは交渉をしている、イランもその気であると、例によって嘘つき常習犯のトランプは毎日適当な発言をしているが、それが事実の裏付けを伴わない口からの出任せであることを、世界中が知るようになった。

 分かっていることは、トランプが何も知らずに戦争を始めたらしいことである。敵を知り己を知ることが古今東西の戦の基本であるのに、イスラエルに押し切られる形でとりあえず始めたのだ。イスラエルが誇る世界一の情報機関モサドがハムネイ以下国家の中枢が一堂に会する日時場所を特定できたので、これを狙えば一網打尽にイランを転覆させることができるとの読みである。そして実際その企て自体は成功した。

 そして、その次は? 反体制派デモが昨年末から今年にかけて大きな高まりを見せていたので、トランプとしては民衆がこれを好機として立ち上がり、現体制を崩壊させてくれることを期待していたようである。まさか。アメリカに国家の首脳陣を殺されて(おまけに女子校を誤爆して160人の女子学生の命を奪ったのである!)、その仇であるアメリカに追随する国民もいないであろう。たとえ現政権にいろいろ不満があったとしても、今はそれはとりあえず収めて、共同して敵に当たるのが、人間行動のセオリーである。対してイスラエルは、イランという国を徹底的に潰すことを目的として、次々とイランの中枢人物を抹殺していくことを考えて実行しているので、アメリカとは目的が異なっている。シリアがアサド政権が崩壊したことで国家が崩壊したように、イランも同じようになると考えていたのだろうか。それはあまりに甘過ぎる。イランはシリアのような小国ではない。長い歴史と伝統のある、中東の大国である。

 第二次大戦後、アメリカが唯一成功した戦争は、1990年の湾岸戦争である。イラクがクウェートに攻め込んだ大義なき戦争に、欧米は一致して多国籍軍を派遣したのである。日本も同盟国として、堂々と協力したこの戦争のことはよく覚えている。ブッシュ(父)大統領のときの国務大臣コリン・パウエル(キューバ系)は戦争時の統合参謀本部議長であり、ベトナム戦争の反省から、武力行使の原則として、パウエルドクトリンを提唱した。いわく戦争は、死活的な国益が懸かる場合のみ、明確な目的・圧倒的な戦力行使(初めに叩いて早期に終わらせ、自軍の犠牲を最小限にする)・国民及び議会の支持・出口戦略がある場合のみ遂行されるべきである…。この戦争は何一つ満たしていない。

 明確な目的がないということは、止め時もないということである。何がどうなったら戦争に勝利をしたとして止められるのか。始めるのは勝手でも止めるのは相手が居るので、相手の了解なしに止めても意味がない。まして出口戦略など、全くないはずである。イスラエルはイランを壊滅させる目的があり、それにはアメリカの協力が必要だが、アメリカ国民はなぜイスラエル国民のために犠牲を提供しなければならないのか。未だトランプの支持者は多いというのが信じられないが、それでもその点について納得するアメリカ国民が同じくらい多いとは思えない。

 とにかくトランプで分かったことは、アメリカ大統領の強大すぎる権限である。国家元首であり(日本の首相は元首ではない。日本の元首は天皇である)、行政部の長、陸海空軍の最高司令官であり、行政官や最高裁判事の任命権、予算教書の提出、行政命令、大統領令の発令、外交交渉などの権限を一手に行使できる。かつての王権に近く、任期4年間は悪行でも戦争でもやりたい放題である。「No Kings!」というデモが全米あちこちで起こっている。3億人余の人口の3%がデモに参加するようになれば、その声は無視できなくなるという。この間に、罪なき人たちが殺傷されていると思うと、本当にじっとはしておられない気になる。

 

カテゴリー: 最近思うこと パーマリンク