総裁の任期は3年である。昨年9月27日、9人もの議員が立候補して盛り上がった中、上位2人である高市議員と石破議員との決選投票に持ち込まれ、石破氏が高市氏を逆転して総裁に選出された。理由はいろいろあっただろうが、最後のスピーチの出来が勝敗を分けたと感じている。
私が参院議員になったのは1998(平成10)年7月、27年前である。時の首相は橋本龍太郎氏、幹事長は加藤紘一氏。最後の選挙方式となった比例拘束名簿式の下、私は11位につけてもらい、結局14位まで当選したのだが、幹事長は18位まで当選するだろうと読んでおられた。つまるところ自民党は惨敗したのであり(それをきっかけに自公連立が動くことになる)、選挙当夜当確が出て党本部に赴いたとき、出迎えた首相は「おめでとう」と言いながら微笑みはなく、握手をした手も氷のように冷たかった。すでに野中氏ら党の実力者から引導を渡され、辞めることは決まっていて、総裁選はそれこそ前倒しで、その月の間に実施された。現職議員に加えて、7月25日以降に晴れて議員になる私たちにまで選挙権が付与されたのだ。小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎の3人が立候補して小渕氏が新総裁となり、総理となった。
これまでの自民党の慣例では、国政選挙に負ければその責任を取って総裁は辞める(総裁に引導を渡せる実力者が存在した)。総裁が欠けるので当然のように総裁選が実施される、というだけのことだった。党則第6条2項に「総裁が任期中に欠けた場合には、原則として、前項の規定により(=総裁公選規程による)後任の総裁を公選する。」とあるが、条文の根拠など改めて見るまでもなかったのである。今回同条4項が脚光を浴びている。いわく「総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各1名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う」(党本部総裁選挙管理委員会に対して行う。同5項)。これがこのところ騒がれている総裁選前倒し、あるいは臨時総裁選実施要求の根拠である。
幹事長に任命されて3年を任期とする総裁選挙管理委員会(委員長は昨年も今年も逢沢一郎議員である)はその手続きとして、基本、要求者の顕名によるとした。8日(月)午前10時~午後3時の間に党本部に出頭して書面を提出する形である。その間マスコミはずっと張っているし、また名前は公表するとのことなので、迷っている人も多いそうである。同条4項をリコール規定だと解せば、匿名ではなく顕名によるべきだというのは当然であろう。だが、この規定のどこにリコールの趣旨が記されているのだろうか(そんなことを考えて作ったとはとうてい思えない)。臨時総裁選実施=現総裁の不信任=事実上のリコールと解するとしても、それはあくまで「事実上」であり、結局のところ、総裁が自発的に辞任しなければ、次に進めないはずである。そうした法的なことは詰められているのだろうか。自民党はこれまでおよそなんでもなあなあでやってきた。党則の規定に拠って云々といった議論はおよそしてきていないと思われる。
臨時総裁選実施要求が過半数を満たしたとしてもリコールの効力がないとすれば、それは臨時総裁選が前倒しで実施されるというだけであり、石破総裁自身も立候補できるはずである。その旨自民党両議員総会会長の有村治子氏も言明していたし、伊吹文明氏(元衆院議長)のブログにも書いてある。今朝の日経にも「現職の首相が改めて立候補することも可能だ」とちゃんと書いてある。つまり次の総裁選で再度当選すればよいのだ。石破総裁反対派の弱いところは(客観的に見て、ということであり、私が石破さんを支持しているというわけではない)、石破さんを否定して次の総裁は誰になるべき、そして新たにどういう政治を進めていくといったビジョンが全く見えないことである。
いざ実施となったら誰かを立てて、推薦者を集めて…というのでは行き当たりばったりもよいところである。今迷っている議員も多い中、いざ臨時総裁選を実施すると決まった場合、石破さんの対抗馬として誰が出るのか。石破さんが再出馬して石破さんがやっぱり当選したというのでは、目も当てられないのではないだろうか。そもそも昨年9人も立候補したということは、それだけ本命がいないということである。派閥も解消され、誰もが認めるこれといった首相候補もいない。かつての三角大福といった実力者はおらず、それぞれサラリーマン的な小粒の政治家しか見当たらない。
それはひとり自民党に限らず野党を見渡しても同じことである。みな小粒。これぞ政治家といった議員がいない。自民党がコップの中での傍目にはバカバカしい政争をやっているときに、野党は次の総理が決まったら連立を組もうかなあと眺めているだけに見える。世界はどんどん動いている。石破さんならば大丈夫と思うわけではないけれど、では誰だったら大丈夫、任せられるという人も、与野党見渡して見当たらないという恐ろしいことに改めて気がついている。参院選からすでに1ヶ月半が経つ。