肝心の道徳(倫理)はどうなっているのだろう

早くも2月最後の出勤日である。やはり通勤電車は混んでいないが、花粉症が出てきて、目が痛い。

さて、低空飛行の菅政権に大打撃が続く。森氏の女性蔑視発言が問題視されての後任で迷走し、橋本聖子氏に決まったが、彼女にはセクハラ問題があり(もし男性であったならば失脚していただろうに)、オリンピックも迫る中、何事もなくやりおおせるのか、見通せない。そこにもって、降って沸いたような総務省接待スキャンダルである。総務省の役人が関係業者から高額接待を受けたということだけならば総務省の問題に留まったかもしれないが、その業者である東北新社(映像総合プロダクション)の創業者は秋田出身で菅氏の後援者であるうえ、その部長に菅氏の長男が就いていて、接待の当事者でもあったのだ(だからこそ文春砲に狙われた)。12年ほど前に入社した長男は、その以前総務大臣だった父親の大臣秘書官を務めていたし、その以前は秘書であった。

官房長官を長く務めてきた菅氏の、関係者からの接待に応じた総務省幹部たちは、10人を超える。当該会社は公務員倫理法第2章(5条)に根拠を有する公務員倫理規程3条にいう「利害関係者」だが、菅氏関連会社の誘いだから、断れなかったのか? 内閣人事局を作り官僚人事を思うがままに操る菅氏の不興を買うのはこわいはずだからだ。というより、無料飯が習い性になっていて、かすかな抵抗感すらなかったのかもしれない。接待社がこの会社だけであったはずもないからである。赤信号、皆で渡れば怖くない…。中で一人、自分の食事代だけ払った幹部もいたそうだが(倫理規程上、ゴルフや麻雀については自分の分を払っても禁止である)、他は無償である。お土産、タクシーつき。そもそも同法では利害関係者からの饗応接待は禁止されているし、利害関係者でなくても社会通念上相当と認められる程度を越えての饗応接待は許されないので、一人7万円を越える饗応額で、利害関係者とは知らなかったという抗弁自体が通らない。まして、記憶にない、菅氏の息子とは知らなかった…は人を馬鹿にするにも程がある。

総務省の闇は深そうである。1998年の大蔵省(当時)官僚ノーパンしゃぶしゃぶ接待以降、公務員倫理法(倫理規程)が出来たのだから、それを楯に、誘われても断り、役所で昼間堂々と会えばよいのである。堂々と会えないようなことであれば、会わない。それこそ赤信号、皆で渡れば怖くない…。皆で止めようと言えば、それで済む話なのだ。高級官僚がこの体たらくなのは、情けない限り。東大など一流大学を出た、一応は日本のエリートたちが、学問などなくても分かるはずのことが分からないのでは、教育の意味などないではないか。

そうなのである。学校では道徳を教えない、学ばない。教えるとしたら家庭である。父親が仕事人間で教育に関心がなく、任せられた母親が、塾に通わせ懸命に勉強させて一流大学に入れ、一流の職場に入れることしか頭がなくては、一体どうやって子供は道徳を学ぶのだろう。もともと宗教なくしては道徳心は育たないそうである。故に無宗教者にとって殺人はタブーではない、といったことをドストエフスキーはテーマにしていなかったか。その問いに答える形で、新渡戸稲造は「武士道」を英語で著した。その当時は確かに武士道はあっただろうが、しかし今、武士道がなんたるかを知る人のほうが少ないはずだ。家庭で「嘘をつかない」ことを教えることさえ出来れば、親がその姿を子供に見せることさえ出来れば、最低限の道徳心は養われるだろうが、それもなければ…やはり難しいであろう。

梅原猛さんの著作集「現代を生きる」にざっと目を通したのだが、オウム真理教事件で、なぜ一流の大学を卒業したエリートたちが、麻原に心酔し、言われるがままにサリン製造に手を染め、あまつさえ恐ろしい殺害行為に自ら手を染めたのか、について大きな問題意識を提示しておられる。なぜ誰一人、止めなかったのか。彼らのうち、反省の弁を述べたのすらごく少数だった。麻原ら事件関係者の死刑執行も終わり、事件はすでに風化した感もあるが、教育の劣化という意味での問題は今もずっと続いている。

「息子は別人格です」と首相が言ったとき、背中に寒いものが走った。かつて同じような言葉を聞いた…三田佳子が息子が薬物で捕まったときの記者会見で、「息子は少年法で守られています」と言ったときである。それは人様が使ってもよいが、当事者が使う言葉ではない。まったくもって美しくない。まして菅氏の場合は、贈賄者にも収賄者にも自らが大いに関わっているのである(贈収賄で早速告発がなされている)。根深い利権構造になっているであろうことは、そのうち明らかになると思われる。「嘘をつかない」「自利を貪らない」は最低限の道徳だと言うと、それを政治家に求めるのは八百屋で魚を求めるようなものだと言われた。たしかに。でも、それでは困るのだ。政治家を支えるべき官僚よ、お前もか、では国民は本当に困るのである。

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