ゴーン事件に思うこと

年が替わって,早や10日。昨今は感慨も湧かず,新たな決意もなく,淡々と日を重ねている感じである。2年連続正月にひどい風邪を引いていたのが今年は元気で,それだけで生活の質が天と地ほどに違うと実感する。単に加齢のせいなのかどうか,このところ夜10時頃には眠くなり朝5時頃目が覚めるという,いたって健康的な生活スタイルになっている。睡眠がよく取れていさえすれば,風邪を引かなくて済みそうである。

さて,昨年から続くゴーン事件。実質犯たる特別背任罪での10日間の勾留期限は1月1日(裁判所も拘置所もお疲れ様です!)。勾留延長期限の今日,追起訴がなされる。8日には珍しい勾留理由開示手続が行われた。かつて過激派華やかなりしころ,仲間が大勢傍聴に来て容疑者を元気づけるために?頻繁に行われたものだが(30年以上前に経験した),今ではとんと聞かない。これをしたから勾留が取り消されるというものではないからだろうが,ゴーン氏の場合は,自ら裁判所に無実を訴えることによって,来る保釈に繋げようとの意図に加え,国内外のメディアに訴えることで,今後の裁判を有利に働かせることを企図したのであろう。

起訴状を見ていないが,報道されるところによれば,特捜部の捜査はどれもこれも無理筋のように思われる。

当初の金融証券取引法違反については前回も少し述べたが,有価証券報告書の提出義務を負うのは,再逮捕した2016年~18年の,ことに直近2年についてはCEO である西川氏だが,その西川氏の処分をどうするのだろうか。まさか,司法取引で刑の免除だなんてありえないだろうに(2011年~2015年の5年間で逮捕したときには,西川氏を不問に付すためにあとの3年は不問にする趣旨なのかと思っていた)。投資家の信頼を損なう虚偽記載は「重要な事実」に限られるが,売上高10兆円単位の世界規模の大会社で,年10億円程度の虚偽記載が一体どうやったら「重要」に格上げされるのか? はたまた,世間体を考えてあえて記載から漏らしたという年10億円の報酬は,将来の支出が確約された性質のものといえるのか?(確約された金銭債権というのならば,不履行の場合,裁判に訴えてでも取れるものでなければならない。)

次に特別背任罪である。私的取引の際,多額の評価損が生じたために銀行から追加担保を要求され,その方策として,日産に担保を提供してもらったというものであり,サウジの大変な実力者である知人に約16億円を日産から支払ったというものである(この2つの関係はよく分からない)。前者についてはすぐに返済され,日産に損失は生じていないが(この点の争いはない),特捜部は一時的にでも日産に損失が生じた時点で背任は既遂になったと考えているようだ(すなわち,弁済は事後の情状にしかすぎない)。しかし‥これはゴーン氏が勝手にやったものではなく,取締役会の議決を経ているのだ! それでも特別背任罪になるのだとしたら,賛成した取締役はすべて共犯ではないか。おまけに背任罪は業務上横領罪とは異なり,全体財産への損害なので,会社に損失が生じないと実質的には既遂とはいえない。

そして,サウジの有力者への支払い!! その人の事情聴取を行わずに,どうやって事件をやれるのか? ゴーン氏の言う通り,日産のためにいろいろとロビーイングなどをしてやった謝礼と答えるのではないか(実際,弁護人にはそう答えているという)。有力者の口添えを得なければビジネスが何も進まない国は世の中にたくさんある。16億円が多額だというのは庶民の感覚であり,サウジの大富豪にとってはどうということはない金額である。

そもそも背任罪(刑法247条。会社役員など一定の立場があれば会社法の特別背任罪となる。)は非常に立件が難しい犯罪である。尊敬する上司は常々,「(業務上)横領でやれず背任にしかならなければ,検察の負けだ」と言っておられた。背任の構成要件は複雑である。①他人のためにその事務を処理する者が,②自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的(=図利(とり)加害目的)で,③その任務に違背する行為をし,④本人に財産上の損害を加えた(=全体財産に対する犯罪)。その典型は,不良貸付けだ。銀行の融資担当者が親類に頼まれ,その経営する会社の資金繰りが苦しく,回収の見込みがないことを知りながら,内容虚偽の稟議書を作り,融資を実行したといった事案を考えてもらえば分かりやすい(学生にはいつも,例えばと具体例を挙げられなければ,理解はしていないとと言っている)。

背任罪はいわゆる目的犯であり,自己若しくは第三者の利益を図る「利得目的」又は,本人に損害を加える「加害目的」が必要である(とはいえ,必ずしも意欲ないし積極的な認容までは要しないとされる)。後者は損害を与える故意と重なるのでそれを強化する役割を果たすだけだが,前者は故意を超えた主観的要素であり,本来の目的犯ということができる。これが意味を持つのは,一見任務違背行為によって本人(日産)に財産上の損害を与えた場合であっても,それが「本人の利益を図る目的」であったときには背任罪は成立しないし,両目的が併存する場合はどちらが主であるかによって決せられることになる。つまり,ゴーン氏の支払いが日産のためであれば,あるいはそれが主であれば背任罪は成立しない。ともあれ,「第三者」である当該サウジ人の裏付け供述なくして,とうてい立件など出来るはずはない。

この事件は,まず先にゴーン氏の逮捕ありき,だった。本来は任意で呼び出してその弁解を聞くのが筋である。ゴーン氏を追い出したい一心の,日産側から提出された証拠は,日産にとって不利なもの(すなわちゴーン氏にとって有利なもの)は提出されえない。逮捕→勾留という国家の最大の権力を使う以上,その権力は限りなく抑制的に行使されなければならない。村木さんも大阪地検に呼び出され,弁解などあろうことか,直ちに逮捕された。その後,検事による証拠偽造まで発覚して無罪になったのだが,その一件にもどうやら懲りていないと見える。

西川さんがテレビに登場して何かを言う度にとても不快な気分にさせられるが,周囲も同意見が多い。ゴーン氏を冗長させ,まるで日産を自分の財布のように様々な公私混同をさせたこと自体は事実であるらしいが(ただ,それがイコール犯罪となるわけではない),そうなるまでに至った自分たちの力不足を,まずもって真摯に謝罪すべき立場にあるはずだ。それをまるで自分たちが被害者であるかのように喋るので大きな違和感が伴う。経営陣は日産ブランドを著しく傷つけたことについて,株主や従業員,消費者にまずもって詫びるのが筋である。本来は会社内で処理すべきことを検察を利用してやってのけたのだが,検察は国家予算,つまり税金で動いている公的機関であり,一企業のものではない。それまた公私混同ではないのか。

そもそもゴーン追い出しは何のためか‥?日産のためか‥?と聞けば,本人らは当然だと答えるのだろう。だが,その認識自体が大きな誤りである。日産=現経営陣か? ルノーは日産の43%強の株式を持つ。大株主というより親会社といってもよいくらいである。これに外部の7%の株主の支持を得て過半数を取れば,現経営陣はすべて解任される。現経営陣はそもそもルノーによって選ばれている立場なのである。

ルノーが自分たちの言うことを聞く経営陣に一新し,新経営陣が検察に対して「訴えには根拠がない。取り下げてほしい」と言えば,検察はそれでも裁判で有罪を取れるだろうか。背任罪は親告罪ではないが財産犯であるから,その被害者が処罰意思を欠けば,処罰をする意味がない。ゴーン憎しの現経営陣が変わらないことを前提に,この裁判は続けられることになる。そもそもがすでに述べた通り,相当に筋の悪い事件である。起訴までは出来たとしても,これを有罪に持ち込むのは至難の業であろう。起訴後直ちに弁護人らは保釈を請求するが,裁判所はどう判断するだろうか。

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