大相撲がもう無茶苦茶である!

一昨日に終わった九州場所は強く記憶に残る場所になった。1つは白鵬、1つは貴乃花。

白鵬の礼儀のなさはずいぶん前からあちこちで指摘されてきた。加齢で力が落ちてきた故だろう、ここ数年はただ勝てばよいとばかりに、張り差しとエルボーまがいのかち上げ、時に目つぶしや目くらまし‥。これはレスリングではありだろうが、相撲はただのスポーツではなく神事である。その頂点に立つ横綱がやるべき取り口では決してなく、喜ぶ観客もいない。だが、協会も横綱審議会も止める手立てもないまま、白鵬の増長に次ぐ増長を許してきた。もちろんその背景には白鵬以上に強い力士が育たないという、日本人力士の現実もある(初場所にようやく誕生した稀勢の里は3月場所、日馬富士に押し出された時の大けがに起因し、休場に次ぐ休場という情けなさである)。

11日目、嘉風に一気に押し出され、土俵下で1分にわたって自ら物言い! ようやく土俵に上がったものの、嘉風が勝ち名乗りを上げても降りず礼もせず、ルール違反の最悪の醜態を演じた。14日目平幕遠藤に対し、いつもの汚いやり口で強引に押し出して50回目の優勝を決め、千秋楽のインタビューでは、最初に今回の暴力事件に触れて、「全力士を代表してお詫びをする」(事件の当事者に全力士を代表する資格はないでしょ!)、「場所後本当のことを話して、膿を出し切りたい」「日馬富士と貴ノ岩を土俵に上げてやりたい」(膿の張本人じゃないの!? あなたは理事長なの!?)。おまけに最後、万歳三唱を促すに至っては、呆れ果てて、テレビを消した。万歳をしなかった人も多いだろうし、何となくしてしまった人も、あとで冷静に考えて不愉快な思いをしたことであろう(もちろん、世の中にはいろいろな考えの人がいるので、そうでない人もいただろうが)。徹頭徹尾、勘違いと思い上がりの権化としか思えない。

日馬富士の暴力事件。そもそもが、モンゴル人力士の集まりに端を発する。モンゴル人力士同士、互いに馴れ合いの取組みが多いとはつとに言われることである。貴乃花親方や稀勢の里などは日頃から力士同士が馴れ合うことを嫌い(俗にいうガチンコ勝負。八百長相撲の反対である)、他の部屋の力士とつるんで飲みに行くことも極力しないと聞く。時は10月25日夜?26日未明。11月12日から始まる九州場所の直前である。二次会に日馬富士、白鵬、鶴竜、照ノ富士、貴ノ岩のモンゴル人力士に石浦(白鵬の所属する宮城野部屋の弟弟子)もいたらしい。モンゴル人力士の会と分かれば貴乃花の了解は得られなかったが、貴ノ岩の出身高校である鳥取城北相撲部監督石浦氏(石浦関の実父)を囲む会ということで了解を得て出席していたという。

貴ノ岩は今年初場所14日目、対白鵬戦においてガチンコ勝負をして白鵬に勝ち、それが故に千秋楽を待たずに稀勢の里の初優勝が決まった。この敗北がなければ白鵬は稀勢の里に1差で迫り、千秋楽本割対決で勝ち、優勝決定戦に持ち込めば白鵬が優勝した可能性も高かった(稀勢の里はプレッシャーに弱いので)。勝ちと優勝にこだわる白鵬にしてみれば、同じモンゴルなのに、空気を読めない奴と思ったことは想像に難くない。

さて、事件の真相。実際に貴ノ岩に暴力を振るったのは日馬富士だけだったかもしれないが、同席していた白鵬が意思を通じていたと思うのは私だけではあるまい。白鵬が止める気になれば止めることができただろう。しかし、生意気な後輩をとっちめる良い機会、止めるなどは考えもせず、止めたとすればある程度のヤキが済んでからだったはずだ。ヤキを入れても少々の怪我をしても、貴ノ岩はモンゴル力士会に出たことを親方には言えず、問題が明るみに出ることはなかったはずだ(しかしこの酒席、ずっと休場していて給料泥棒の感のある鶴竜が、なぜいたのだ!? これも大きな問題だろう)。

実際、貴ノ岩は厳しい親方に当初本当のことは言わなかった。だが、なぜだかすぐにばれて、29日、警察への被害届提出となった。この順序がおかしいことは前に述べた。貴ノ岩は巡業にも出たが容態が悪化したようで、11月5日から9日まで福岡市内の病院に入院。9日付けの診断書は「(事件後)全治2週間。場所には問題なく出られる」とのことであった。だが、貴乃花親方は貴ノ岩を全休させ、協会危機管理委員会の再三の事情聴取要請を撥ね付け、今に至るも被害者の調査がないまま推移する。いわく「警察に任せている」、とはいえ警察は協会の独自調査を拒んではいない(組織がその自律権に基づき、調査を進めるのは当然のことである)。いわく「容態が悪い」、とはいえ新たな診断書は出てこない。入院をしているとの情報もない。モンゴル力士の先輩が会いに来ても会わせない。被害者の調査なくして、日馬富士ら当事者の処分は決められない。初場所の番付編成会議まで時間がない。協会はすっかり途方に暮れているだろう。

貴乃花の対応が大人げないことについては、前にも書いた。いったい何を企図しているのか。不満の協会を混乱させることはもう十分にさせただろうが、だからといって今の執行部を皆辞めさせ、貴乃花を理事長に据えようという人はいないだろう。かえって反対の効果しかもたらさない、どころか、理事を辞めさせられる恐れも十分にある。そう正しく指摘する人は周囲にいないのだろうか?(頑固で人の言うことを聞かないと言われるが、きっとそうなのだろう)すでに貴ノ岩を初場所も全休させるとも言っているらしい。しかし巡業にしろ場所にしろ、休場させるには診断書が要る。このままでは貴ノ岩は幕下陥落も覚悟しなければならない。傷害の被害者がもっと大きな被害者になってしまう。力士が親方を告訴することは事実上ないかもしれないが、法的に言うと、強要であり監禁までが成り立つ事態ではないかと危ぶんでいる。

白鵬といい貴乃花といい、記録上大横綱であるだけに、人格的な欠損を見せられると、とても悲しいものがある。15歳頃から相撲しかやってきていないのだから、教養はもちろん人格は育ちっこないよということなのかもしれないが、それでは寂しすぎる。今育っている期待の若手たち、北勝富士、貴景勝、阿武咲(おうみしょう)らは名大関だった魁皇のような円満な人格者にどうぞ育ってほしいと願わずにはいられない。そして相撲道に邁進するすべての力士たち、こんな騒動に心揺らがすことなく、毎日ひたすらに精進をしてほしいと願う。

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