アメリカ第一主義のトランプ現象はフランス、オランダなどにも波及し、次の選挙では自国第一主義の極右政権が誕生するかもしれないと言われている。その原因について、これまでよく、貧富の差が拡大し過ぎ、人々が既成の政治エスタブリッシュメントに不満を持つようになったからだと言われている。これに対し、最近読んだ論考で、そうではなく、ネット社会になったが故にいかなる極端な考え方でも支持を広げ、拡散するようになったからだというのがあって、なるほどと思わされた。
たしかに、既存のメディアでは、新聞にしろ雑誌にしろもちろんテレビにしろ、右といい左といっても、その中で極端な思想なり考え方は発表前に陶太され、ある程度のものしか表に出てこない。だが、ネットでは何でもありだ。気分が悪くなるほどのヘイトスピーチでも偏見思考でも即座に広まり、それなりの支持を集める。そうやって、難民移民反対、移民に職を奪われている、メキシコ人は出ていけ、イスラムは敵だ、彼らはテロを起こす…といった自由と平等に明らかに反する論議が大きな顔をして闊歩する。最近もトランプに刺激されたのか、「日本第一党」なるものの集会が開催されるとあって、ああこれだと思った。以前であればその存在なり活動を世間に知らせること自体が難しかったけれど、ネットでは誰にでも苦もなく出来るのだ。実際、大枚を叩いてテレビコマーシャルを打つより、ネット上での口コミ、情報拡散のほうがよほど宣伝効果が大きい時代なのである。
トランプに票を入れた中心は45歳以上の白人層だという。対して、若者の多くはリベラルだから、民主党のクリントンを支持した。若者は、移民とか難民とか、イスラムとか、そんなことで区別をし差別をして育ってはいないのだ。もともとクリントンのほうが300万票も多く支持を集めた。ああ、と思いついた。イギリスでも離脱を支持したのは年配層。反対に若者層は離脱反対が強かった。EUと共に育った彼らにとって、ネットで自由にやりとりをする外国人のほうが田舎のイギリス人よりずっと近い存在である。
雇用は今後恐ろしい勢いで変わっていく。AI(人口頭脳)やロボット、IoT(すべてのものがネットにつながる)。国境を越えたグローバルな時代に、アメリカ人を雇え、アメリカに工場を建てろ、自由貿易は駄目だ保護主義でアメリカを守ると声高に叫んでいるトランプの主張は、何十年も昔の主張であり、恐ろしく近視眼的だと言わねばならない。彼自身が変わるだろうとの期待はとても持ちえず、とすると4年経ったとき、アメリカは世界にだいぶ遅れを取っているのではないか。日本もずっとか先を見越して成長していかねばならないはずである。