河井夫妻被買収者の不処分、そして黒川氏ら不起訴…

10日に議員辞職するとのマスコミ情報はガセであった。冷静に考えて、するはずがなかった。給料は入らなくなるし(どうやって弁護代を払うのだ!?)、買収の趣旨否認で徹底抗戦の構えを見せているのである。早速に保釈請求をしたというが、関係者多数だし、少なくとも第1回公判が始まる前は、いかな裁判所でも保釈を認めることはあるまい(と思うが、最近は人質司法の批判を受け、だいぶ柔らかくなっているのも事実である)。

そしてどうやら検察は、地元議員や首長約40人について、すべて刑事処分を見送るようである。一部については(受領最高額は200万円である!)略式請求との噂もあったが、それもないらしい。びっくり。

いうまでもなく検察(裁判所も)は先例主義である。過去の同種事犯をどう処理したか、それが今回の処理を決める大きなポイントとなる。検察官が誰か、どの地域かで処分が変わることのないよう、全国統一基準で動くのだ。公選法違反はどんどん厳しくなり(他に厳しくなったのが覚せい剤取締法違反、酒気帯び・酒酔い運転、脱税…)10万円の買収被買収は通常、公判請求である。今ほど厳しくなかった時代でさえ、2000円を貰って投票に行った学生も一律罰金にした(公民権停止は3年)。せっかく成績優秀で地元の国立大学に入ったのに、もはや公務員にはなれないのである。ああ、たかだか小遣い銭で人生を棒に振って、なんと愚かなことよと、憤りよりも哀れさが先に立った。選挙は原則ボランティアなのだと知らなければならない。

もとよりこの河井夫妻事件はそれ自体極めて特殊なのであるが、被買収者について、貰った額がどれだけ多額でも、法を最も遵守すべき公職にあっても、なお不起訴(というよりそもそも立件せず、なのか?)という先例が出来てしまうと、今後買収事件を調べるとき、どうするのか? 今後はこの先例を踏まえて、被疑者も弁護人も、略式請求ですら徹底抗戦するであろう。現場が非常に困ることは目に見えている。それとも今後は、この先例を踏まえて、被買収はおしなべて処罰なし、としてしまうのだろうか? これまで処罰された人たちは皆、不公平すぎると怒っていることだろう。

さて、あえて同じ日にしたのか(河井夫妻のほうに注目が行くであろうことを考えて?)、例の黒川氏がなんと不起訴である! 記者3人も当然不起訴だ。この捜査は(というほど捜査はしていないはず)いくつかの告発を受けたもので、容疑は(単純)賭博、常習賭博、贈収賄だったらしい。地検は、賭博は起訴猶予(ということは、容疑事実を認めたうえ、ただ賭け金レートが低いからあえて起訴はしない、としたのであろう)、常習賭博は犯罪不成立(?犯罪不成立という不起訴理由は、ない。賭博自体は認められ、ただ常習性の認定に疑義があるというのであれば、不起訴理由は「嫌疑不十分」が正しいと思われる)、贈収賄は嫌疑なし(? 嫌疑なしというのは、例えば身代わり犯人とかで、被疑者に容疑が認められないのが客観的に明らかな場合を言う。告発事実自体が贈収賄を構成していないのであれば「罪とならず」が正しいと思われる)ですべて不起訴にしたのである。贈収賄はそもそも無理だが、結論はじめにありきであった。

告発者はこれを受けて検察審査会に申し立てるであろう。籤で選ばれた11人の審査員のうち8人が賛成して「起訴相当」とすれば、検察庁が再捜査のうえなお不起訴とした場合、検察審査会が再度起訴相当議決をすれば、強制起訴になる(検察官役として弁護士が指名される)。そうした手順については地検も読み込み済みなので、いずれ起訴相当議決で戻ってきた際には、単純賭博を認定して略式請求にするのではないか(単純賭博の法定刑は「50万円以下の罰金」でしかない。罰金で済めば弁護士資格にも支障はない)。そうすれば起訴は一応したことになるので、検察審査会の再度の議決はなく、常習賭博で強制起訴されるおそれもなくなるのである。

であれば、最初から単純賭博を認定して罰金にするほうが素直な運用と思われるが、検察審査会が起訴相当議決をするとは限らないし、何より、こんな破廉恥なことをしでかしたのに懲戒処分にすることなく退職金をほぼ満額支払ったこととの均衡上、不起訴の結論ありきだったのである。本当に、身内に甘くて、情けない限り。前にも書いたように、違法な定年延長閣議決定については法務検察も積極的ではないにしろ協力していたはずで、その負い目がある故に?黒川氏に厳しく当たれないのかもしれない。

大体、これだけ世間をお騒がせしておいて、総長も説明責任を果たしていないのだ。上にある者ほど、自らに厳しくあり、責任を果たさねばならない。いわゆる、ノーブレスオブリージ。この国にはもはやそうした言葉も考え方も死語になってしまった感がある。この後もきちんと追っていきたい。

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