ゴーン逃亡に思うこと

とにかく驚いた。大晦日,レバノンにいるとの報が流れ,えっ裁判所保釈条件の変更を認めたの?‥まさか。脱出と分かって,のけぞった。一体どうやって脱出できたのだ! パスポートは手元にないはず,あったとして,あるいは偽造されたのだとしても,ゴーン及びその置かれた状況を知らない者は,いない。出入国管理手続を逃れられるはずはないのである。それを逃れられたとあっては,日本も国際的に大いなる恥である。

監視カメラの解析によると,ゴーンは12月29日昼頃,一人で港区の自宅を出たという。その後(おそらくは)協力者の車で密かに移動して,その夜,関西空港からトルコ・イスタンブール行きのプライベートジェット機に乗り,到着地で飛行機を乗り換え,30日にレバノンに到着したらしい。この間,どれだけの協力者が関わったことか。専門家により,入念に練られた計画のはずである。レバノン当局によると,ゴーンは正当に入国しているので何の手続も取らないという。日本の弁護人によると,ゴーンはなぜかフランスのパスポートを2通持ち,日本に滞在するためにパスポートの携行が必要であることから,保釈条件を変更してもらい,うち1通を鍵付きのケースに入れてゴーンに渡し,鍵は弁護人が保管していたという。おそらくはそのパスポートでレバノンに入国したと思われるが,日本からもトルコからも適法な出国手続を取っていないのため,不法入国になると思われるのだが。

日本は速やかに,ICPO(国際刑事警察機構)(正しく言うと,その東京支局)に「国際手配書」を発付してもらい,レバノン宛,日本の刑事被告人であるゴーンの身柄返還を求めたが,案の定拒否された。「案の定」というのは,レバノンと日本の間に犯罪人引渡条約はなく(日本が結んでいるのは米国と韓国だけである),あったとして,自国民不引渡し(及び政治犯不引渡し)は国際法上の慣習だからである。ゴーンはフランスとブラジルにも国籍を持つので,もし何らかの手段でそれらの国に行ったとしても,やはり同じことである。レバノンの弁護人らは,フランス本局ではなく東京支局から発された手配書は無効だと言っているらしいが,ともあれこれを受けて,レバノンはゴーンの事情聴取を行うようである。

検察は,不法出国容疑でゴーンの自宅などの捜索を開始し,協力者を含め,事件の全貌を鋭意解明していくが,なんといち早くトルコは,空港関係者5人を逮捕したという。ゴーンの入出国記録がないのはトルコへの密入・密出国であり,立派な犯罪である。それに関わったとされる彼らからどこまでの供述が得られるか。この逮捕は,2つのプライベートジェット機の運行会社が,違法に飛行機を使われたとして刑事告訴をしたことを受けてのことなのであろう。捜査の展開によってはゴーン自身に国際手配がかけられるかもしれない(レバノンが引渡しを拒否するのは変わらないだろうが)。ゴーンとしては何があってもレバノンにさえいれば安全というわけではなく,現地でも英雄視する人ばかりではなく批判も強く,実際,レバノンの弁護士らが,ゴーンがイスラエルに入国した容疑で刑事告発をしたとのことである(最長禁錮15年!)。その捜査次第ではレバノンで新たな被告人になるやもしれないのである。

自国民不引渡しというのは,すなわち自国民に罪を免れさせるいうことではなく,代理処罰(=国外犯処罰)と表裏一体のものである。つまり,そちらには引き渡さないけれど,代わりに自分の国でちゃんと裁判をするからねということだ。レバノンの国外犯処罰規定はどうなっているのだろうか?(日本では刑法2・3条に列記された犯罪がその対象である)。殺人や強盗や放火といった重罪ならば当然処罰規定はあるだろうが,ゴーンが起訴されたのは特別背任罪(会社法)であり,また金融商品取引法といった,いわばマニアックな犯罪である。レバノンにそもそもそうした犯罪があるかといえば疑わしいし,日本ですらそうした犯罪は国外犯処罰規定の対象外なのだ。という次第で,これまで代理処罰が適用されたケースはあるものの,強盗や交通事故といった,いわばどの国でも犯罪と定めているものであった。

そもそも,事件発生後に犯人が自国に逃げ帰り,今から捜査を行うといった初期段階であればともかく,ゴーンの場合は,日本ですでに捜査が終わり,起訴もされて保釈中の身であり,4月にも公判が始まる段階なのである。ここにきて,他国に裁判権を移譲するなどは主権を放棄するに等しいことだ。つまり,ゴーンの身柄が戻らないことには,裁判は開けず,起訴済みなので公訴時効も進行せず,この後ずっと彼は死ぬまで国際的な「逃亡被告人」であり続ける。保釈は取り消されて勾留状が生きているので,もし日本に戻ってきたらそのまま身柄を拘束され,もう保釈を許されることはなく,判決が確定するまで身柄は拘束され続けるであろう。有罪となれば,額が大きいだけに服役期間も長くなると思われる。

妻子との接触も禁止され,不満が大きかったことは理解できるが,国際人としては,その国の法を遵守する形で粛々と公判に臨むべきであった。無罪だと以前から主張しているのだから,その旨公開の公判で,堂々と主張すべきであった。敵前逃亡したのでは,証拠が固くて無罪が取れないと思ったからだと言われても仕方がないし(実際,検察はそう言っている),我慢のできない常識のない人だと思われても仕方がない。公訴事実はいずれも,事実認定はもとより法的評価が大きく左右するだけに,万一身柄が戻って裁判を続けることになったとして,裁判所の心証はいたって悪く(裁判官も人間である),有罪に傾きやすくなると思われる。今回の蛮行(とあえてよぶ)は,ゴーンにとって,良いことは全くなかったのではないか。

さて,検察に対して。何の声明もないが,簡単にでも出すべきではなかったのだろうか。日本の検察は,法に従って,誰に対しても平等な扱いで法を適用し,粛々と進めていること。人質司法というが,それは身柄を離さないことが無理に自白を取る手段になっていることを非難されているのであり,ゴーンは保釈もされているうえ,もともと自白などしていないのだから非難は全く当たらないのだと。いずれにしても,今後国内外で,ゴーンには目を離せない。

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