イスラム国民の入国禁止なんて、ありえない!

今月20日に就任したトランプの就任演説、要はアメリカ製品を買ってアメリカ人を雇え、と徹頭徹尾アメリカ第一のアジテーションで、従来の大統領就任演説に見られた格調や品位がかけらもなかった。悪い予感がしたが、わずか10日間で悪夢が次々と現実になっている。

そもそも彼は経済のイロハを分かっていないのではないか。ビジネスマンと言っても、国際的な製造業などに携わり、需要と供給、株式を理解して売上げを伸ばし、M&Aで会社を大きくしてきたのではなく、ただ国内の不動産を転がして金を儲け、破産を繰り返して損切りしていったのだから、経済など知らなくてもいいのだろう。貿易をただ二国間の数字でしか見ないのも誤りなら、輸入品に多額の関税をかける保護主義は結局自らの首を絞めることになるのである。例えば、アメリカの自動車産業。数多くの部品の多くは労働力の安いメキシコで製造されてアメリカに入ってくる。それに多額の関税をかければアメリカ製自動車の価格は当然に高くなり、競争に勝てないし、アメリカ国民も高い代金を払うことになる。といって部品をアメリカで製造すれば、労働力が高いのでこれまた価格に跳ね返る。過度の保護主義は国を滅ぼす。例えば、ナポレオンの失敗の原因に、大陸封鎖令を出してイギリスとの貿易禁止をかけたことで、農業国であるロシアやポルトガルなどが大損害を被り、イギリスと同盟を結ぶ事態になったこともその一例である。

自由貿易はノーと決めつけているから、即刻TPPも廃止した。それに代表されるように、オバマ氏のやってきたことすべてを帳消しにするらしい。テロを防ぐために(?)「イスラム教徒の入国禁止」を選挙期間中うたっていたが、これまた即刻大統領令を発布したのには驚いた。いわく、シリア難民の受け入れ停止、他の国の難民も原則120日間受け入れ停止、加えてなんと、テロの懸念がある7か国についてはビザを持つ一般市民の入国を90日間停止するとした。対象国はイラク、イラン、リビア、ソマリア、イエメン、スーダン、シリア。

アメリカのテロは、ボストンマラソンテロでも知られるようにアメリカで生まれ育った自国民によるものが多数である。当該7か国出身のテロリストはいないし、9.11に関与したサウジアラビアはなぜか外れている。もちろんテロリストないし犯罪者の入国を拒否するのはどの国でも当然のことだが、国籍故に、宗教故に一律入国を拒否するのは、まさしく人種差別、宗教差別であり、アメリカの憲法に照らしても、また近代法の理念に照らしても、決して許されることではない。馬鹿げた大統領令に反対するアメリカ市民の大規模なデモが各地で起こり、15州の司法長官が違憲だとの声明を発表し、まずはワシントン州が連邦裁判所に提訴したという。提訴は続くだろう。健全なアメリカの姿に、少し、いや大いに、ほっとさせられる。トランプさん、あなたは学校で学ばなかったのですか。アメリカは法治国家であり、司法権が他の2権に優越することを。誰であれ憲法や法に服さねばならず、それは大統領でも例外ではないことを。法廷で違憲が確定すれば、大統領令は無効になる(もっとも裁判は時間がかかるので、停止期間内に確定するとは思えないが)。もちろん議会が大統領令を無効とする法律を通してくれてもよいのだが、議会は共和党が優勢なので望めないだろう。

事態がここに至っても、トランプ大統領は自説を曲げず、マスコミ批判を続けている。違憲の疑いがあると率直に述べた連邦司法長官代行の女性を、オバマが任命したのだと即刻首にもした。選挙戦では過激でも、いざ就任すれば現実主義者として穏便になるであろうとの楽観的な読みは、見事に外れた。著しくアメリカの国益をも損なっているので、議会で弾劾されればよいと思うが、共和党が多数を占めるし、これまで弾劾された大統領はいないことを見ても、そう簡単には行かないであろう。

メルケル首相やオランド大統領は、直接電話でトランプに苦言を呈したという。自由、平等、博愛は人類普遍の真理なのだから、当然の行為である。ただ日本政府は、アメリカの内政だからと何も言っていない。安全保障を人質に取られて、言いたくても言えないのかもしれないが、なんとも寂しいことである。

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