九州場所は一度しか行ったことがない。最近は九州場所もチケットが取れなくなり、売り出し即日完売だったとか。ここは座布団が長座布団のため、飛ばない(笑)。九州出身の関取は、義ノ富士(草野)、正代、佐田の海(3人熊本)、平戸海(長崎)、美ノ海(沖縄)である。
ウクライナ出身の安青錦関はまだ21歳。18歳で来日、安治川(関脇安美錦)部屋に入門後、一昨年9月に初土俵を踏んだ。勝ち越しを続け、今年3月の初入幕後は連続11勝を挙げ、7月場所には前頭筆頭(三役でも良かったが番付運がなかった)、9月場所小結、11月場所関脇に昇進して初めて12勝を挙げ、初優勝もものにした。大関昇進の一応の基準は三役で計33勝以上だが、安青錦関は計34勝を挙げ、しかも横綱・大関を破っての優勝なので、文句のない大関昇進である。これで来場所2横綱・2大関が揃う。ますます大相撲は盛況になることだろう。大変おめでたいことである。
安青錦は7歳頃から柔道、レスリング、そして相撲に取り組んできた。ウクライナは相撲の人気が高く、たまたま見て、一瞬で勝負が決まるので面白いと思ったそうだ。15歳で世界ジュニア相撲大会に出場するため神戸に来て、そこで関西大学相撲部キャプテンの山中新太と知り合う。山中が「ハロー。相撲強いね、いくつ?」と聞いたのがきっかけだそうだ。その後SNSを通じて交流を持つ。ちなみにこの大会の優勝者は18歳の三田(今場所十両だったが大怪我をして休場中である)、安青錦は3位。2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が勃発し、18歳になれば男子は出国禁止(徴兵になる)となる。安青錦は山中にヘルプを求め、山中は神戸の自宅に引き取った。関西大学での練習も提供。昼間には日本語学校に通う。そして縁あって安治川部屋に入門が決まる。外国人力士は各部屋1人制限だが、外国人を取らない方針の部屋もあり、安治川親方もそうだったが、彼の真摯な目を見て、考えを変えたという。誰にでも好かれる真面目な性格であり、とにかく相撲に真剣に取り組んでいるのが見て取れる。わずか3年の滞在で、日本語能力も驚くほど高い。
低さを貫く前傾姿勢は彼独自のもので、この姿勢で当たられると引くか叩くか、あるいは投げるしかないが、引かれても叩かれても強靱な足腰と背筋で決して崩れない。レスリングで築いてきたこともあるだろうが、レスリングをやっていた力士はことにヨーロッパだと多いので、天性のものであろう。加えて、脚を払ってひねり倒す「無双」といった技術も合わせ持ち(対琴櫻戦は中に潜って内無双で決めた)、とにかく心技体併せ持った本格派大関が誕生したのである。意外に体は柔軟ではなく、股割はできないし、四股も高く上がらない。故に怪我の恐れがあるとも指摘されるが、それは四股を地道に踏むなどの真摯な稽古でカバーしてもらいたいと思う。
ウクライナは大鵬の父親の出身地である(白系ロシアにはウクライナやポーランドが多い)。大鵬の記録に迫るほど若いので、このまま順調にいけば昭和の大横綱に並べられる成績を残すかもしれない。大の里の怪我も心配だし、これまで一度も安青錦に勝ったことがない横綱豊昇龍と大関琴櫻も、なんとか攻略の糸口を掴んでほしい。若手といえば、期待の高かった熱海富士、伯桜鵬(共に伊勢ヶ浜部屋)が今一つぱっとしないし、王鵬(大鵬の孫)も同じくである。高校横綱から鳴り物入りで入ったのに低迷しているといった力士も数知れず。祖国の差し迫った危機を背に毎日緊迫して過ごす安青錦とは比べるほうがおかしいかもれないが、どうか皆が安青錦に倣って、これまで以上に真摯に稽古に取り組み、精進してほしいと願う。



